ミッションは医療のアップデート。
医師とエンジニアの共創が鍵フィールドエンジニア - 児玉

「医療現場において、患者に関するあらゆる情報をシームレスに統合することができたら」

電子カルテは、そんな未来につながる可能性を秘めている。CLINICSチームで事業企画を担当している児玉は、新卒時代から一貫して電子カルテの開発に携わり、いくつもの企業を渡り歩いてきた。

情報の質と量がともに極めて重視される医療現場において、安全性が高く優れたプロダクトを作るために必要な視点とは何か。電子カルテのプロフェッショナルに、その奥深さを問う。

技術書よりも医療の専門書であふれた本棚

児玉のキャリアは、常に電子カルテとともにあった。

医療系のシステムベンダーに新卒入社したタイミングに、厚生省(現 厚生労働省)はカルテの電子保存を認めると通達。児玉のエンジニアとしてのキャリアは、電子カルテの開発からスタートした。

カルテといえば、患者の診察内容や経過観察が記録される「診療録」を想起するだろう。しかし、電子カルテはこれに加え、医師から薬剤師や臨床検査技師などの診療技術部門に対して、検査依頼や薬剤などの情報を送る「オーダリングシステム」の機能も備える。

ただでさえ高度な専門知識が要求される医療業界だが、電子カルテに求められる要素は、さらなる複雑さを有する。いうまでもなく、はじめは苦労の連続だった。

「医療従事者と円滑にコミュニケーションをとるには、『医療制度に関する法の知識』や『検査や治療に関する臨床の知識』『各部門の役割やオペレーションに関する業務の知識』の3つが欠かせません。身近に医療従事者がいない環境で、いずれの理解も足りず、壁にぶつかることばかり。当時はとにかく専門書を読み込む日々で、手に取った本は技術書より医療に関する様々な専門書の方が多かったかもしれません」

医療データの伝達や共有は、シームレスでなければならない

経験を積み、一定の知識と知見を蓄えた頃から、児玉にはあるこだわりが生まれた。それは、医療情報の標準規格の採用だ。

電子カルテには、それぞれのベンダーが開発した複数の規格がある。標準化されていないカルテの情報には互換性がなく、あるベンダーから他社製の電子カルテに切り替える際、移行に膨大なコストがかかる。

「私が新卒でエンジニアになった頃、日本はちょうど電子カルテの黎明期。当時はIT化の波が一気に押し寄せた時代でもあり、電子カルテの普及自体が目的化していました。そのため、標準化に関する議論が十分になされないまま、各ベンダーが独自の規格で開発を進めていた。結果、同じ人の情報が複数の異なる規格のカルテに蓄積され、カルテ間の情報を共有・統合できないという大きな負が生まれていたのです」

児玉が標準化へのこだわりに目覚めたのは、米国製の国際標準規格HL7(エイチ・エル・セブン)を用いたデータ連携基盤の開発がきっかけだった。はじめて標準化されたプロダクトに触れた児玉は、「医療情報の活用においても、開発負荷の観点でも、ムダを最小限に抑えられる」と身をもってその重要性を感じた。

確かに、電子カルテが標準化されれば、迅速な情報の伝達や共有につながるだろう。しかしそれ以上に、医療にとって本質的な価値を持つと児玉は考えた。

「データが蓄積されれば、検索や計算、分析も容易に行えます。つまり、“医療ビッグデータ”として、紙カルテ時代には実現し得なかった、新たな価値を生み出せるのです。例えば、医師に対して医薬品や検査のレコメンド機能を実装したり、診療の過程と症状の経過をたどることで、診療の効果分析も可能になるかもしれません」

ただ、この分析を信頼性の高いものとするためにはデータの質が絶対条件となる。そのために標準化は欠かせない。

「医療現場におけるあらゆる情報は、人の健康や命に直結します。だからこそ、標準化によってデータの質を高い水準に保っておくことは極めて優先されなければいけない。データ活用と標準化は、表裏一体で向き合わなければいけないと確信を深めました」

医師とエンジニアが対等な目線で議論する環境

児玉がメドレーに参画するきっかけとなったのは、代表の瀧口から届いた一通のメッセージだった。「医療ITについて意見交換をしないか」という誘いを受け、児玉は「同じ課題に取り組むプレイヤーの考えを聞いてみたい」という想いから、快諾。

「当時の環境や待遇に不満はなく、転職も考えていなかった」というが、瀧口と言葉を交わしメドレーを詳しく知るにつれ、徐々に興味が湧いてきたという。

「電子カルテと向き合う上で、社内に何人もの医師が在籍している点に強く惹かれていきました。当時、ベンダーと顧客という関係性の中では、どうしても難しい部分もあるという実感もあったんです。社内にいれば対等に議論ができ、かつ複数名の医師が在籍していれば、より多面的な意見をもらえる。電子カルテと本気で向き合うのであれば、これ以上の環境はないと考えメドレーへの転職を決めました」

入社直後、児玉はクラウド電子カルテ『CLINICSカルテ』のカスタマーサクセスチームにジョイン。当時、CLINICSカルテはパイロットが稼働したばかり。児玉を含め3人のメンバーで医療機関への導入をスタートさせる段階だった。

「導入の工程は、いわば『走りながら考える』状態でした。ただ、メドレーには『CLINICSオンライン診療』を始めSaaSプロダクトにおける体制構築の知見もあり、作業の効率化や属人化を防ぐ仕組み作りもハイスピードで進行。結果、半年ほどで導入の型を構築できました」

その後、新設された事業企画に異動。過去の経験を存分に活かし、カルテにとどまらない課題と向き合い続けている。

「事業サイドからのプロダクトへの要求を精査し、開発サイドと協議を行ったり、業務効率化ツールを作るためにコードを書いたりなど、これまでの経験を存分に活かし事業と向き合う日々です。また、現在メドレーは、医療機関や患者が医療においてよりインターネットの恩恵を受けやすい社会を目指すべく、官公庁の案件にも積極的に参加。厚生労働省の『電子処方箋の本格運用に向けた実証事業』にも開発チームとして参画し、カルテの開発の知見も日々アップデートさせ続けています」

機能美の追求は、絶対の設計指針

児玉の仕事へのこだわりは、電子カルテ黎明期への洞察と機能美の追求から生まれている。かつて経験したように、目の前の課題解決だけを目的とした実装は、将来の技術的負債へとつながりかねないばかりか、業界全体の発展を妨げる事態すら引き起こしうる。故に機能美への意識は欠かせないと考える。

「たとえば、情報の粒度が異なるものを並べるなど、理想からは離れた実装が必要とされる局面は訪れます。その時に、シンプルかつ美しい型を保つための代替案を考えられるかどうかが重要です。過去の経験から、この手間は決して惜しまないよう胸に刻んでいます」

そのためにも、プロダクトに新たな機能を追加する際は、その機能が複雑・冗長なものではないかを入念に検討し、その上で、「実用的かつ機能的なものを目指す」という指針のもとで実装を行う。

「メドレーは、機能美に優れたプロダクトを作ることを最優先しています。そのためには、実用性と機能性の両方が満たされていることが絶対条件になる。この指針はいわばメドレーの美学であり、開発を担う一人ひとりが共通認識として持っているものです」

医療のIT化には、未だ多くの可能性が眠っている。データ活用の土台を整えた上には、さらなる医療体験のアップデートを見据えなければならない。誰もが、より質の高い医療を受けられる未来を目指し、児玉は今日も模索を続ける。

Edit: Kazuyuki Koyama
Text: Shika Fujisaka
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Date: FEB 2020  
本記事の組織名、内容等は取材当時のものです
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